真空ポンプのガスバラストバルブについてその役割と具体的な効果量

今回は真空ポンプの大気中水分の処理方法、実質ガスバラストバルブについてになります。
また、機種依存の内容もあるのでご注意ください。私が所有する真空ポンプはエドワーズのRV8です。RV8以外にもついてる機種は多数あります。ていうかわりとだいたいついてるはずです。

・大気中に水分が含まれることの問題
平たく言うと湿度が高すぎる場合、真空排気した際にポンプ内に水分が残る場合があります。大気中には水分が含まれています。真空ポンプは排気する際に圧縮し、その結果真空ポンプ内に凝集液が集まる可能性があります。
※凝集液はオイルに混ざり、オイルを劣化させます。

・トラップ
腐食性蒸気または大量の凝縮性蒸気を排気する場合、ポンプへの接続ラインにコールドトラップを使用することを検討します。腐食性蒸気によるポンプ内部の損傷およびオイルへの混入を防ぎます。コールドトラップは空気を冷やして空気内に含まれる水蒸気や有機溶剤を濃縮、分離します。一般的に使用される冷媒は、液体窒素またはドライアイスとアセトンです。使用される冷媒は、汚染物質の凝固点によって異なります。悲しいことに有機溶剤は液体窒素じゃないと無理です。

という訳で水蒸気の対策として考えられるのがトラップです。さきほどのコールドトラップ以外にも色々な種類のトラップがあります。後述のガスバラストバルブ機能がない場合、真空ポンプは水蒸気に対する耐性が無いのでこのようなトラップを用いて対策する必要があります。ガスバラストバルブがあっても補助で使う場合もあります。間違いなく、真空排気速度は落ちるのとお値段がするのが悩みどころです。

・ガスバラストバルブ
真空ポンプにはガスバラストバルブがついてるものがあります。この機能によって真空ポンプの水蒸気耐性を高めることが可能です。逆に言うとこの機能が無い場合、真空ポンプは少量の純水蒸気でも移動できません。ガスバラストバルブを有効にする(ガスバラストバルブを開く)と水蒸気耐性は上げられますが以下のようなデメリットも存在します。
・到達真空度が悪化する
・動作温度が上がる
・オイルの消費量が増える
しかし、これらは真空脱泡機として運用する上では無視できるレベルの問題です。ガスバラスト弁全開でも一桁Paまで到達できます。

※ガスバラストは全ての化学蒸気の凝縮低減に有効とは限りません。また、オイルの温度が高いほうが効果が高いそうです。ULVACだと20分動かして温度を70℃ほどにしろと書いてあります。ガスバラストバルブを開いてから運転するほうが油温が高くなるそうです。20分は長いですがいずれにせよ真空ポンプは暖機運転してからの使用をおすすめします。冬場はオイルが固まって始動しない場合すらあります。RV8はそのような場合オートで何度か始動を試みる動きがありました。

※ガスバラストバルブはオイルに溶け込んだ水蒸気を取り除く効果もあります。心配な場合は空運転してから使用を終えるようにすると良いです。
また、RV8では使用後はガスバラストバルブを閉じておくことが推奨されています。

・ガスバラストバルブの効果
RV8はガスバラスト閉、開(弱),開(強)の3つのモードが選べます。ガスバラスト強の場合、 0.22kg/h 、弱の場合 0.06kg/h とマニュアルに書いてあります。ガスバラスト強の場合一時間で220gまでの水分は許容できるということです。

では、通常の大気に含まれる水分はどれくらいでしょうか?
[水蒸気量 計算]
とかで調べると計算してくれるサイトなどが出ます。

温度[℃]、圧力[hPa]、相対湿度(通常想像しる湿度[%])などから絶対湿度[g/m^3]を求めましょう。絶対湿度[g/m^3]は空気1000Lに含まれる水分量になります。

現在の値で算出してみましょう
温度 19.2℃
湿度 41%
の場合、6.764[g/m^3]となりました。

今、1000Lの容積のチャンバーの蓋を閉じて真空引きした場合、6.7g程度の水分がポンプに入ることになります。RV8のガスバラストバルブ弱でも60g/hの処理能力があります。1g/mの処理能力なので6.7分未満でこのチャンバーをおおよそ排気できた場合は処理能力を超えます。ポンプの排気能力は160L/mです。160Lに含まれる水分量は1.07g程度です。ガスバラスト弱の処理能力とほぼ同等なので今ならポンプに何も繋がないでガスバラスト弱で動かすとポンプに入る水分量とガスバラストの処理能力がほぼ均衡します。なお、何も繋がないで排気し続けるのはわりと負荷の高い動作なのでやめたほうがいいです。

では私の環境で計算してみましょう。
チャンバー容積 48Lとした場合、水分量は0.32g程です。ガスバラスト弱の処理能力 1g/m なのでガスバラストによる水蒸気への対処は約20s以上の運転が必要になります。計算では10kPa(大気圧の1/10)に達するまで47sかかりますのでガスバラスト弱でも大丈夫そうです。

実際の複製では22L程度を40s程引きます。0.15gの水分量に対して40sの処理能力が0.66gなので十分対処できてそうです。

※RV8は説明書にこのような情報が載っています。産業用の機種は流石に違いますね。

・水蒸気の季節、夏
大気中の温度が高いほど空気が含むことができる水分量が増えます。(飽和水蒸気量が増える)日本の夏は温度が高く湿度も高い高温多湿になります。高い時は70~80%になるそうです。なので最悪の条件として夏場を検討しましょう。悲しいことに私の作業場はケチってエアコンが無いので温度は高くなります。

温度 35℃
湿度 80%
の場合、31.666[g/m^3]となりました。今のおよそ6倍の水分を含んでいます。

実際の複製で考えると22L中の水分は0.7g、先程も書いたとおりガスバラスト弱で40sの処理能力が0.66gなので若干アウトです。ですが、ここまで最悪の条件でもガスバラスト弱でおおよそカバーできる事がわかりました。説明書にもガスバラスト(強)はそうそう使わないみたいに書いてあったのですが納得です。

・蒸気を発する物体に対する真空排気
今までは大気を真空排気することを前提とした話でした。大気を排気する場合はガスバラスト弱で十分なのがわかりました。しかし、真空脱泡機で使用する場合は話が異なります。有機溶剤は放っておいても水より早く揮発します。さらに状況は悪くなり、真空脱泡を行う場合レジンは発熱、大気圧の低下の両面から沸騰へと向かいます。なので間違いなく通常の大気よりも多くの蒸気、この場合揮発した有機溶剤を含んだ気体を排気することになります。

沸騰する際は液体内部からも液相から気相への相転移がおこるので蒸発量は通常を遥かに凌ぐと思います。なので真空脱泡機でレジンなどを扱う際はガスバラストバルブを最大開放したほうが良いと思います。

ちなみにガスバラストバルブ(強)の場合 220g/h => 3.6g/m なので流石に1分で3gも減っててもOKなら能力的に大丈夫な気がします。
強はかなりのオーバースペックに感じますね。

・真空排気の時間について
以前の記事で「真空排気の時間は40sとする」と書きました。これは、レジン混合して液体=>個体になる時間を考慮しての数値です。なので混合してからの硬化時間が長いレジンなら真空排気の時間は多く取れます。

レジンには120s硬化や180s硬化といったものが販売されていますが、この時間をあまり鵜呑みにするのは危険です。温度による化学反応なので雰囲気温度にも左右されます。なので真空脱泡する際はコップに注いで今の硬化時間を見たほうがいいと思います。コップに注ぐと一つの大きな塊になるので一気に発熱してその熱が全体に伝わるので同じ量でも型に流すより早く硬化するはずです。なので最悪値的な参考になります。

私は以前までウェーブのアイボリーノンキシレン(180s)を使用していました。ちょっと前に里見デザインのホワイト(180s)に変えたところ明らかに硬化速度が落ちたことを実感しました。ちゃんとした比較はしてないのですが、ウェーブの気分で型をあけるとまだ柔らかかったりして倍位の時間を待つようにしました。生産性は悪くなりますが、気泡への対策としては良い傾向です。

今、ためしにテストしたところ(19.5℃)36gの硬化時間が約5分ほどかかりました。明らかに長いので納得の結果です。ちょくちょくマドラーで触ってたのですが3分強までは粘性の違いも感じられませんでした。
こうなると真空排気できる時間は最低でも2mほど取れそうです。真空排気時間を長く取りたい方は里見のレジンをおすすめします。

・RVシリーズについて
エドワーズのRVシリーズは200Vで動くものとか色々ありますが型番から判別できます。
A 65X-YY-ZZZ
X: 型。RV8は4
YYY: モーターの種類。
904 = 100/200V,50/60Hz Single-phase
906 = 110-115/120V 50/60Hz Single-phase
です。このどちらかであれば普通の家でも動かせるはずです。

以上になります。真面目に書いちゃった!ヤバイですね☆

2021/04/19 追記
真空ポンプのプロの友達からガスバラストバルブの効果は油温50℃と70℃で倍位差があったり、導入するガスの湿度で変化したりするそうなので梅雨の時期は効果半分と見たほうがいいと教えていただきました。だからといってガスバラストを全開にして半日も運転させるとオイルが半分くらい減ってミストトラップが速攻でヘタって最悪オイルミストトラップからオイルだぱぁするそうです。つら・・・・本格的に使用する前はガスバラストOFFで暖機運転 + 適宜オイルチェックしてオイル白濁時に水抜き運転などがおすすめのようです。

ガスバラストバルブが思ったよりオイルを消費しそうなのは分かりましたが私のようなフィギュアを複製する人間は実際の稼働時間はかなり短めなので要所で使っていけばいいと思います。また、他にもレジン複製で真空脱泡機を運用してるとレジンがポンプ内でひじきみたいに固まってそのうち死ぬとかいう発言もネットで見ました。やはりレジン複製の真空脱泡時はガスバラスト全開にしたほうがいいのではないかと・・・・難しいですねぇ~

とりあえずマメにオイル交換すればどうにかなりそうな気もします。1作品フィギュア複製したらオイル半分交換とか?あと、最低でも月イチくらいで電源いれたほうがいいとか・・・オイルかたまりそうですしね~


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