私に真空脱泡機が舞い降りた!!(第1部)

脱泡機

どうもかとりです。3D造形をはじめましたがここらで複製もパワーアップしたく真空脱泡を行うことに決めました。もうパーツを細切れにするにはイヤなのだ・・・分割が面倒なのは3Dでも同じなのです。
真空脱泡のメリットはおいおいとして、自宅でやるとそれなりの設備の準備と実験が必要になってきます。今回は真空脱泡の導入に際して調べたことをまとめつつ記事にしてみんなも真空脱泡やろうね☆という目論見です。真空というとよくわからなくて怖いとか難しそうという方が多いと思います。私もプロではないのですが学生時代はよく真空を扱っていたので皆さんの理解の助けになれればいいかと考えています。(他の方の記事をみると特に真空に関する理解が甘い方が多いので)

※最初は軽く、あとになるほど面倒くさくなると思います。わかりやすさのために正確さを欠くこともあると思いますが許してくだち

第一部
・真空脱泡とは?
・真空とは?
・真空について詳しく
・真空脱泡を行うのに必要なもの
・機材選定とそのエッセンス
・予測!実験!結果!!

●真空脱泡とは?
他の記事方も書いてあるので軽めです。真空脱泡機はその名の通り真空にすることで脱泡することです。本記事の脱泡対象はレジンとシリコンです。ガレージキットを作製する際にレジンで複製しますがどうしても気泡が入ります。また、常圧ではレジンが流れ込めない箇所というものができてしまいそれを考慮した型設計は中々難しいものになります。真空脱泡機を使用することでこのような問題を解決します。というわけで
・気泡の削減
・欠けの抑制
・パーツの分割数削減
・型設計の容易化?
などが期待する効果になります。その反面のデメリットとしては
・めんどくさい
・型の痛みが早くなる?
などがあります。後述で詳しく語ることなりますが真空脱泡は生産性が犠牲になります。メリットがその手間を上回らなくてはなりません。簡単なパーツは常圧で流すほうがいいという方も多いみたいです。

●真空とは?
真空と想像するとなにもないとかを想像しますね。そういう空間を作るために真空ポンプで箱の中の空気を取り出します。ただし本当に何もない完全な真空(絶対真空)を作ることは不可能だと言われています。
じゃあどこから真空なの?という問題が発生します。そこで出てくる概念が”真空度”であり、真空度を測定するのが真空計です。真空度は真空の度合いです。これがややこしいのです!まず面倒なのが単位で色々あります。Pa(パスカル),Torr(トル),mbar(ミリバール)など・・・現在の日本ではPaを使用します。Torr表記のものもグーグル先生で調べれば換算してくれるのでPa基準で考えましょう。まぁざっくり1Torr ≒ 100Pa です。
 次に面倒なのが基準点のとり方です。大気圧、つまり海抜0メートルでの圧力を0とするか絶対圧力を基準とするか(絶対真空を0とする)があります。
本記事では絶対圧力基準でお話をします。この場合大気圧は約100kPaになります。一応説明するとkはキロで10^3 = 10*10*10 = 1000です。
よって大気圧は 100*10^3 = 10^5 = 0.1 MPaです。Mはメガで10^6です。ここ大事ですので理解してください!

ここで真空計を御覧ください。
ブルドン管真空計
これは安くてよく見るブルドン管真空計です。ガレージキットの真空脱泡を行う場合はこれで十分です。ちなみにブルドン管は気体の組成に指示値が影響されないのでむしろ適してるともいえるらしいです。組成が変わるというのは溶剤の影響です。さて、これは左回りにものになります。地上では0を指し示すのでこの圧力計は大気圧を0としています。真空を引くと針が左に回り、振り切れると大気圧(0.1MPa) -0.1MPa ≒ 0 Pa になったね。とわかります。え?0Paって無理でしょ?と思ったアナタ、正解です。雑に言うとこれは安くて大雑把な計測装置です。もっと精密な真空度を知る場合は他の真空計を使用しますがそれはまぁ別のお話となります。でも実際どのくらいの真空度までイケるの?と思われるでしょうがそれはポンプの性能と箱の性能に依存します。

●真空について詳しく
真空度についての図が以下の通りです!と、言いたかったんですが作った図をロストしました。悲しす・・・

低真空 10^5Pa~10^2Pa
中真空 10^2Pa~10^-1Pa
高真空 10^-1Pa~10^-5Pa
超高真空 10^-5Pa~10^-8Pa
10^0 = 1. 10^-1 = 0.1. 10^-2 = 0.01です。

真空脱泡で使用する真空は低真空~中真空です。これ以上の真空を高真空、超高真空などと呼びます。半導体製造装置などは超高真空などを使います。超高真空を作る方法でオーソドックスなのはまずロータリーポンプやドライポンプなどの粗引きポンプで中真空程度まで引きます。次にターボ分子ポンプで超高真空までにもっていきます。ターボ分子の排気側には粗引きポンプを繋ぎます。真空容器がしょぼいとリーク(漏れ)がおこります。漏れというより外部からの空気の流入なんですが多分真空が漏れるといった概念です。あと、高真空だとチャンバーからの微量なガスの影響もあります。(※金属表面に吸着した気体分子など)昔使ったロードロックとか金属で厚みが3cmとかありました。対物ライフルも防げそうなレベル!!!

話変わりますがたまに、「ブルドン真空計が振り切れなったから真空引けなかった・・・・」なんて方がいますが大間違いもいいところです。そもそもちょっとでも排気したら真空です。低真空ですけど。「分類上は真空だけど真空じゃない」←オレオレ真空論なんて知らん。みたいにトンチンカンな事言うとツッコまれてしまいますのでご注意を。真空(-0.1Mpa)にするっていう表現すごい気になる・・・で、実際レジンの真空脱泡で必要な真空度はどの程度なの?という疑問が出てきます。これについては少なくとも私は『分からない』です。調べるとほとんどの方が「真空計回った!!ヨシ!!」なレベルで語っているので到達真空度が複製にどのような影響を与えているか不明です。到達真空度が低いと欠けるかもよ☆程度です。まぁまともな真空計高いんですよね・・・あとレジンの真空脱泡はスピード勝負なので細かいこと気にしてる余裕がないのも事実です。しかし、真空度は高くて悪いことは基本的にありません。ポンプの種類によっては20kPa程度(大気圧の1/5)までしか真空を引けないポンプがあり、
???「そんな真空度で大丈夫か?」
?????「大丈夫か、分からない」
という問題が浮上します。なのでこのあとの機材選定では高い真空度を引ける方の機材をおすすめします。

・真空脱泡を行うのに必要なもの
では真空脱泡機に必要なものです。メインは
・真空ポンプ
・真空チャンバー、真空デシケータ、つまるところ真空にする容器です。が、実際にはもっと細かい物が必要になります。

・継手:配管をつなぐものです。色々規格があります。ぶっちゃけ詳しくないです。
・真空ホース:ホースや。馬じゃないので注意。管ですね。
・真空計:ブルドン管真空計のやつを選びましょう。です。
・バルブ:蛇口的なアレ
配管関連は細かくて面倒な上に接続規格次第で色々あるので実際に使用したものはあとでまとめます・・・・

●機材選定とそのエッセンス
さぁきました!難しくてキモになる部分ですのでじっくりいきましょう。

・真空容器
購入するか自作するかの二択になります。自作する人が多いです。丈夫な鍋に穴開けて管通してアクリルの厚板で蓋するのが一般的にようです。詳しくは調べてください。私は運良く新古品の真空デシケータが4.5万(定価28万)で手に入ったのでそれを使用します。ちぇっちぇる~~~ん!!大切なのは大きさです。大きいと真空を引くのに時間がかかります。レジン硬化までに真空引き&大気開放をする必要があります。これが大きな問題でスピード勝負になるので下手に大きい容器を使用すると固まるまでに真空が引けない・・・という現象がおこります。が、大きくても発泡スチロールなどで詰め物すれば実行容積は減らせます。これは重要なことなので覚えておきましょう。
あと、最近はBRIAN & DANYというメーカーが真空容器をAmazonで販売しているそうです。自作するよりこっちのが楽で性能がでるかもしれません。
お値段も1.5万と下手したら自作以下なのでいいかもです。

・真空ポンプ
いくつか種類があります。
・ロータリーポンプ
・ドライポンプ(ダイアフラム式など色々)

おすすめはロータリーポンプです。前述しましたがロータリーポンプは一般的にドライポンプより到達真空度が高いです。
ロータリーポンプのいいところは
・安い
・高い真空度が得やすい
というのがあります。逆にデメリットは
・オイル対策が必要
となります。何も対策しないとポンプの排気口から油のミストがぶちまかれて部屋がオイリーになります。その対策として排気口にオイルミストトラップをつける、ポンプの排気口から管を伸ばして外につなげるなどあります。

さて、おすすめしなかったドライポンプです。油を使用しないのでドライポンプといいます。これのメリットは
・オイル対策不要
となります。デメリットは
・到達真空度が低い(ことが多い)
・若干高い
となります。ネックなのが到達真空度です。これが低いことの影響が不明なのでロータリーポンプをおすすめします。

・真空ポンプの性能
気にするべきパラメータは以下のものです。
・排気速度
・排気速度・圧力 曲線
・到達真空度

 到達真空度はドライポンプを使用する場合かなり差があるので注意してください。ロータリーポンプの場合大抵1桁Pa程度までの能力はあります。1kPaまで引ければ十分かと思うのでロータリーポンプならあまり気にしなくていいはずです。
 前述もしましたがレジン複製の真空脱泡はスピード勝負です。~60s程度で真空を引く必要があります。なので排気速度が極めて重要になります。また、ポンプは基本的に真空度が高まるにつれて排気速度が落ちます。これをグラフ化したのが排気速度・圧力 曲線です。ホビー向けだと公開されてなかったりしますがロータリーポンプはどうやら排気速度低下は10%以内に収まりそう?ドライポンプはえげつないほどに排気速度が落ちたりします。ドライポンプの場合は要注意です。

・真空ポンプの選定
というわけで真空ポンプの選定は
1. 目標到達真空度を決める
2. 目標到達真空度へ達するまでの許容時間を決める
3. 真空容器の容積を決める
4. 到達真空度、容積、所要時間、から必要な排気速度を算出する。
といった手順になります。排気速度が早いほどポンプは大型で高価になります。お財布と相談してなので容積を減らしたりして再検討したりすることになると思います。というわけで決めていきましょう

1. 真空度は1000Paを目標とする
2. 30~60sです。
3. 私が購入した真空デシケータの容積は48Lです。デカすぎるので詰め物して少なくとも半分以下にするとして20Lとします。
4. さぁ計算だ。
グーグル先生で[真空 排気速度 計算]
と調べるといくつかサイトが出てきます。アルバックのHPがおすすめです。2021/02/20現在では圧力・排気速度 曲線が一定ではないドライポンプを使用した際の計算がのっています。曲線でも分割して足し合わせることで概算してます。賢い。

エクセルでシートを作ると楽です。
以下の図のようなシートを作りました。
排気速度計算
式は =($B$4/C8)*2.303*LOG(A8/B8) です。=> (容積[L]/排気速度[L/m])*2.303*LOG(初期圧力[Pa]/到達圧力[Pa])
これは100kPaから90kPaまでの時間、90kPaから80kPaまでの時間・・・・と計算して足し合わせています。
ちなみにこの計算式は200Pa程度まで有効だそうです。

他の方の真空脱泡機に関する記事を調べると排気速度に関しては150L/m程度は欲しいと言われています。また、75L/mだけど足りなかったなどとかも見ました。

20Lで140L/mの場合10kPaまで20s,1kPaまで41s,100Paまで64sでした。なるほど150L/m程度欲しいというのは妥当ですね。因みに排気速度が全圧力領域で一定とした場合、圧力を1/10にする時間は一定になります。
つまり、100kPa -> 10kPa ,10kPa -> 1kPa , 1kPa -> 100Pa の所要時間が等しくなります。※これはあくまで概算です。ブルドン管圧力計の場合1kPaまでいけば振り切れてるように見えると思います。
また、ブルドン管も精度のランクがありますが、そこそこのでも端精度(針の指す端っこのこと)での精度は±2.4%FS = ±2.4kPaとなります。さらに安いのだと適当だと思うので「振り切れた!」が如何にあまり意味のない情報かがお分かりいただけるかと思います。

さてさて、先程は140L/mでしたがこれが70L/mだと倍かかるので1kPa到達でも82sです。120s硬化レジンだともうかなり厳しそうなのが分かります。です。実際にはレジン混合、型への注入、容器への配置、真空引きまでで慣れても30sはかかりそうです。そこからMAX60sの真空引き、からの大気開放+待機時間込で30s。ここまで2分です。真空引きまで1分かかるとすると2.5分です。夏場は結構厳しそうですね・・・・おとなしく180sレジンを選びましょう。

容積を半分位すれば真空引きの早さは倍になります。ポンプの排気速度を倍にしても同じく倍速になります。お財布に優しいのは間違いなく前者です。なので容積削減のために詰め物をするのはかなり効率的だと言えます。まぁ普通はアホみたいに大きい容器なんて買わないのですが、鍋でも無駄なエリアは詰めたほうがいいです。というわけでおおよそ150L/mのロータリーポンプを調達すれば(計算上は)問題なさそうです。
容器は20L位のを用意して必要に応じて実行容積を削減しましょう。まぁ私は48Lの大型真空デシケータを買いましたが・・・・デシケータは四角形なので容積削減も楽ですしシリコン型作製時にも使えるのでいいですよ!ただしアクリル製のデシケータだと有機溶剤耐性が低いのでフィルム貼ったりコーティングしたりしたほうがいいかもです。私のは塩ビ製で耐薬品仕様とのことですが対策はします。最大の問題はクソ高いことですけどね~ちぇっちぇる~~~ん!!

さて、あくまでこれは理論値です。実測は第二部で行います。

私の機材は
デシケータ:V-3P(48L)
ポンプ:エドワーズ RV8
です。ポンプはヤフオクで落としました。わりと状態が良かったです。設計排気速度 162L/m ,実行排気速度 141.7L/m です。実行排気速度はどうやら配管抵抗を考慮した値みたいですね。

●予測!
上記の理論値と結果は一致するのか!!なんか調べると 10Lの空鍋を引くのにBB-260C(170L/m)で1m程度かかる方もいるそうです。これは上記理論計算だと1kPaまで17sです。全然チゲぇ!!!チゲ鍋!!!
100Paまでとしても34sじゃい!!!理論値±20%に入るのが正しいと仮定した場合にここまで時間がかかる原因として考えられるのは
・ホビー向け?ポンプなので高真空状態での性能低下が大きい
・実はカタログスペックの性能が出てない(スペック詐欺
・自作鍋容器なのでリークが発生している
・配管が細く、配管抵抗が増加して実行排気速度が大幅に低下している
辺りですね。
私が購入したエドワーズ RV8は定価25万位します。また、半導体などではULVAC,ハイファーetc・・・・などのポンプが使用されており、値段も高価です。BB-260Cは5万位で買えるので安くないけど安いほうです。なのでカタログスペックが本当にでてるの?とか色々気になっちゃいます。が、おそらくここまで大きくズレる最大の要因はチャンバーだと思います。リークしてますねおそらく。Oリングはキレイに維持する必要があります。蓋もキレイに。自作チャンバーはその辺厳しそうですね・・・・次点で配管の細さです。配管抵抗を含む理論計算はめんどいですが要は配管は短くて太いほど良いということです。細いストローで吸うのきついっすってお話。です。

また、実際に複製する場合は
・有機溶剤の揮発が真空度悪化の要因として働く
ってのもあるかもです。

さてさてさておきというわけで自分の環境で実験です。容積削減すると厳密な実行体積がわからなくなるのでそのままで実験する予定です。
デシケータ:V-3P(48L)
ポンプ:エドワーズ RV8

10kPaまで47s.
1kPaまで98sというのが予測値です。
ポンプの劣化、配管抵抗、チャンバーの性能などを加味して+20%までになってほしいな・・・というのが予想であり願望とします。

・終わりに
第一部はここまでです。
第二部では実際に組んだ詳細を記します。そして組んだ上での排気速度の検証を行います。思ったより重い記事になりましたが参考になりましたか?真空脱泡機が舞い降りましたか?ポンプとデシケータは本当に思いついて衝動的に買ったのでまさに舞い降りた感じでした。


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